とらじぇでぃが色々書くやつ

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主にVTuberの記事を投稿中。

ラプラス、お前シャドバ極めろ

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ホロライブ新人のラプラス・ダークネス。

初配信後、彼女が二番目のゲーム実況に選んだのは、サイゲームスが誇るカードゲーム、我らがシャドウバースだった。

この選択は少し、いやかなり異様である。

というのも、大手VTuberはゲームを選ぶ際、普通は配信映えやゲームの認知度、ゲームの分かりやすさなどを重視するからだ。その結果選ばれるのは、たとえばマインクラフトやダークソウル。両者とも認知度が高く、画面で何が行われているのかよく分かり、配信者の反応も上手に引き出してくれる。

この点、残念ながらシャドウバースは劣る。配信映えや認知度はまだしも、ルールを知らない視聴者はまだまだ多いだろうし、ゲーム中一体何が進行しているのかは画面をぼんやり見ているだけではよく分からない。カードゲームの弱点である。

そのうえ、シャドウバースは配信が荒れやすいと言われる。なぜか。

今述べたようにシャドウバースは初見にとって取っ付きにくい。すると、必然的に視聴者層は、経験者がその多くを占めることとなる。そして多くの場合、彼ら経験者は配信者であるVTuberよりもシャドウバースが上手い。場数が違う。この違いから見て、差し詰め視聴者の多くを占める経験者は相対的にヘビーユーザー、配信者であるVTuberはライトユーザーであるといえるだろう(特に、大手VTuberはシャドバだけしているわけにはいかない)。

一般的に、ヘビーユーザーとライトユーザーとの大きな違いは、勝利に対する意識である。簡単に言えば、ヘビーユーザーが一勝一勝に貪欲な一方で、ライトユーザーは一勝一勝にこだわりがない。

また、目的意識も違う。ヘビーユーザーは何か肩書きを目指すことが多い。マスターやグラマスを目指すものもいれば、JCGやRAGEをはじめとするオンライン大会の優勝を狙うものもいる。一方で、ライトユーザーは楽しむこと自体が目的である。ネタデッキを組む、自分の好きなカードで戦う、環境デッキを使って無双する、そういう時間そのものに価値を見出し、肩書きは二の次である(もちろん、これは「ヘビーユーザーがゲームを楽しんでいない」というものではない)。

この点については、私が昔書いた記事も参考にしてほしい。(なお、ヘビーユーザーとライトユーザーの違いは相対的なものであり、また簡単に区別できない境界事例もありうる。)

 

tragedy.hatenablog.com

 

こうした価値観のズレは、時として攻撃性を産んでしまう。ヘビーユーザーはライトユーザーに対して、「なんでそんな(勝つために)効率の悪いやり方してんの?」「(勝つためには)そのカードいらなくね?」といったことを言ってしまいがちであるし、たとえばプレイを横から見ていると、ついつい「勝つための」アドバイスをしてしまいがちだ*1。こうしたアドバイスは、ヘビーユーザーには悪気はなくても、ライトユーザーからすると少し攻撃的に映ることもある。なぜなら、そうした助言はしばしば、ライトユーザーの「楽しむための」時間の否定となってしまうからだ。

これが配信となると、もう少し事態は複雑になる。相対的にヘビーユーザーである視聴者は、最初は配信者のためを思い、勝つためのアドバイスをする。だが、そのアドバイスは乱暴な言葉に変質しやすい

理由として、まず第一に、配信者が人気であればあるほど、チャット欄は素早く更新されていくため、視聴者のアドバイスは、その速さの分だけ届きにくくなる。すると、視聴者は苛立ちを募らせるだろう。

第二に、配信者は全ての指示を聞くわけにはいかない。いくらかのアドバイスを拾い上げることは有益だが、全てのアドバイスに反応していては、視聴者がゲームをプレイしているに等しい状況に陥ってしまう。俗に言う「ラジコン」化であり、これは配信の意味を無に帰してしまう。配信者にとっては、基本的に避けなければならない。しかし、とはいえその塩梅を間違えると、視聴者は変わり映えしない状況に我慢ならなくなってしまうだろう。

第三に、そもそも配信者がライトユーザー的信念から、アドバイスを聞きたくないかもしれない。もし、度重なるアドバイスに対し、配信者がムキになってしまうと、コメント欄は一気に荒れてしまうだろう。そうなったら、即時の調停は難しいと思われる。両者の価値観は大きく異なるからだ。

もちろん、これらはシャドウバースに限らず他のいくつかのゲームにも当てはまるだろうが(たとえば麻雀)、ともかくこのような理由から、シャドウバースの配信は荒れやすいと考えられる。

しかし、ラプラス・ダークネスは、以上の事情を知ってか知らずか、デビュー間もない配信であえてシャドウバースを選択した

これは凄まじいことである。

シャドウバースは、それはそれはどえらいほどに過疎化が懸念されているため、大手の配信は大助かりである。実際、私のタイムラインも歓迎の声に大きく湧いた。

しかし、タイムラインが湧いたのはそれだけが理由ではない。なぜなら、大手のVTuberがシャドバ配信をすること自体は今までも何度かあったからだ。にじさんじの葉山舞鈴しかり、三枝明那しかり、ホロライブのモリカリオペしかり、湊あくあしかり。その他多くのVTuberが、シャドウバースを実況している。

www.youtube.com

 

つまり付け加えなければならないのは、「彼女がシャドバ経験者だ」ということである。

それは彼女のツイートぶりからよく分かる。

①カードプールの広さゆえ初心者が参入しにくいアンリミテッドを指定

②「庭園ダゴン」のデッキタイプを知っている

先に述べた「配信が荒れるかもしれない」という懸念事項は、もっぱら視聴者と配信者の実力差にかかっている*2。実力差がほとんど無ければ、アドバイスも必要ない。あるにしても、それは配信者との対等な議論の形をとるだろう*3。もしラプラス・ダークネスが実力者であれば、ヘビーユーザーも安心して楽しめるはずだ*4

また単純に、シャドウバース経験者が大手グループのVTuberになっている例は珍しい

そうした理由から、ラプラス・ダークネスはシャドバ界隈を賑わせたのである。

 

そして実際、彼女のシャドウバース配信を観た感想は「面白かった」。

特筆すべきは、彼女のリアクションの激しさと目まぐるしく回転するトーク*5である。

相手が入室したら名前にツッコミを入れ、自分のプレイ中も黙らず喋ることに特化、知らないフォロワーが出たらリアクションを欠かさず、リーサルを取られたら叫び台パンする。喉が枯れないか心配になる一時間半。彼女の声に耳が痛くなった視聴者も多かったことだろう。

しかし、その彼女の感情の激しさは、デジタルカードゲームの実況に非常にマッチしたものだと言わざるを得ない。

たとえば、eスポーツの文脈におけるシャドウバース、ひいてはデジタルカードゲームは、「初見が見ると画面で何が起こっているのかが全く分からない」というのがやはり問題で、市場を拡大する上での大きな課題だと言われてきた。ではどうやってその課題をクリアするのか。その一つの手段が、「プレーが上手いか下手か」「このカードは強いか弱いか」などを逐一説明する解説であり、異様に高いテンションとドラマチックなセリフ回しで場を盛り上げる実況だった。

私はシャドウバースを引退して二年以上経っており、今のカードプールはあまり分かっていないのだが、しかしシャドウバースの大会の中継は、比較的面白く観れる。ルールが分かっているという点はもちろん考慮せねばならないが、それを差し引いても、実況と解説の合わせ技はしっかりと効いていると感じる。

ラプラス・ダークネスの場合、解説に値するような発言はほとんど一切なかった。けれども、そのテンションの高さは、試合の実況と同じように、「何かよく分からないけど面白い」と人に思わせるだけのパワーがいくらかある。私にはそう感じられた。

 

また、彼女の実況についてもう一つ軽く触れるなら、彼女が「超越」「ギガキマ」などの古典的なデッキタイプを持ち込んできたこと、そして彼女のデッキ回しが覚束なかったことも、いくらか功を奏したと思われる。

中途半端に勝つために頑張っているよりは、イキった発言をしてボコられた方が美味しい。配信映えを最大限考慮した立ち回りだったのだろう。

そのうえ、先に私は「配信が荒れるかは視聴者と配信者の実力差に掛かっている」という趣旨のことを書いたが、あまりに実力差が離れていても、まじめにアドバイスする気力は失われるものだ。古典的なデッキと不器用なプレイングは、コメント荒れの防止にも役立った。

 

ラプラスは配信の終わり際、「次は」と次回のシャドウバース配信を匂わせた。

願わくば、定期的にシャドウバース配信をしてほしい。そして、もし勝ちにこだわる気があるなら、シャドバを極めて、JCGとかにひょっこり出場したりしてほしい。

プロデューサーの木村氏やプロを含めて、シャドウバース界隈は君に注目している。

↑ ルームマッチに参加しようとする木村氏

↑プロゲーマーのリグゼ氏も反応

↑注で触れたVTuber

*1:そうしたアドバイスの厄介なところは、各人にとってはそれが「正解」であり「最善手」であるということだ。

*2:ただし、マンスプレイニングに由来した配信荒れの懸念は拭い切れない。シャドウバースをプレイしているのは、おそらくゲームの性質から考えて男性が多いが、彼らは女性配信者に対して過剰にアドバイスをするかもしれない。その場合は女性配信者の実力が通常より低く見積もられ、結果的に配信荒れが起こってしまう恐れがある。

*3:たとえばシャドウバースを主に扱うVTuber、YumemiChannelのユメミは相当な実力者で、彼女のコメント欄は平和そのものに見える。もちろん、配信規模の違いはあるだろうが。

*4:しかし、実際の彼女のプレイングはお世辞にも上手いとはいえないものだった。過去にプレイしていたという彼女の言葉は本当だろうが、配信でのプレイングがエンタメ用の演技だったのか、それとも素なのかは判別がつかない。

*5:ノリと勢いで構成された喋りを「トーク」と呼んでいいのかは少し疑問だが。